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2023.03.28

出産育児一時金について(2023/3/28 更新)

令和4年12月10日、岸田総理大臣は記者会見で令和5年度から出産育児一時金の支給額を50万円に増額すると発表し、令和5年4月1日からの支給額変更が決定しました。その後、厚生労働省 社会保障審議会で支給額変更開始に向け、財源の確保など検討を進めてきました。

 

1.出産育児一時金とは

出産にかかる費用の負担軽減のため、公的医療保険(健康保険、共済など)から一定額を支給する仕組みです。出産時に児一人につき、令和4年度までは42万円、令和5年度からは50万円が支給されます(うち、産科医療補償制度掛金1.2万円)。
※産科医療補償制度の加算対象外の場合は40.8万円(令和5年度から48.8万円)が支給されます(在胎週数22週未満の出産)。

 

2.支給対象者

公的医療保険に加入している本人またはその扶養家族が対象者です。85日以上の妊娠期間を経て、出産したことが条件となります(流産、死産、人工妊娠中絶も支給対象です)。

出産の前に退職して保険証が変わった人は、在職時または出産時いずれかの保険者(保険証の管理組合、自治体など)からの支給となります。在職時の保険者からの支給には条件があり、退職後6ヵ月以内の出産、かつ、在職年数1年以上です。

 

3.支給方法(令和5年度から)

一時金の支給方法は大きく分けて2つ。医療機関が受け取るか、患者様自身が受け取るかのいずれかです。

<直接支払い制度>

医療機関に一時金が支払われる制度です。
患者様は医療機関へ制度利用の手続きを行います。医療機関から保険者に一時金を請求し、医療機関に対して最大50万円が支払われます。

出産費用が50万円を超える場合は、患者様は窓口でその差額を医療機関に支払います。50万円に満たない場合は、窓口負担はありませんが、患者様ご自身で保険者に差額を請求する必要があります(支払い明細書などの書類が必要です)。
直接支払い制度には、患者様が大きな金額を用意しなくてよいというメリットがあります。

加藤クリニックでは直接支払い制度を利用可能です。妊娠32週ごろ来院時にスタッフからお声がけいたします。

 
<償還払い>

患者様が一時金を受け取る方法です。
患者様は出産費用の全額を医療機関に支払います。後日、保険者に患者様ご自身で一時金の請求手続きを行います(出産費用の支払い明細書などの書類が必要です)。

 

4.支給額の増額と分娩費用の値上がり

出産育児一時金は、出産にかかる費用の増額を背景に、度々支給額の再検討と増額が行われてきました。厚労省の研究では、出産費用(正常分娩時。差額室料、産科医療補償制度掛金、付加サービス費等は除く)は公的医療機関、私的医療機関を問わず、毎年1%程度ずつ上がっており、令和3年の調査の全国平均は47.3万円でした。

令和3年の結果と毎年の値上がり幅を根拠に、令和4年度の出産費用の全国平均を約48万円と推計。これに産科医療補償制度掛金1.2万円を足した49.2万円をまかなえる金額である50万円を出産育児一時金の額とすることとなりました。

 

5.医療保険制度の改正

一時金の増額に合わせて、出産費用の値上げを表明している分娩施設も少なくありません。昨今の物価上昇は施設運営費、医薬品等費用などにも大きな影響を及ぼしているのも事実です。しかし、不適切な値上げは防がなければなりません。その一方で、分娩施設を決める際の情報として、費用に関する情報が十分に提供されていない実態も見えています(先の厚労省研究より)。

妊婦さんやご家族が適切に分娩施設を選択できるように、厚労省は医療施設へ「出産費用の見える化」を今後求めていくとしています。

国は、全世代で出産育児を支え、次世代育成を目指す仕組みを検討しています。そのひとつとして、今回の一時金の財源を後期高齢者保健制度からも負担してもらうことで進めています。
次の保険料率の改訂がある令和6年度から正式に負担を開始する(令和5年度は臨時的な負担とする)予定で詳細を詰めていますが、今後の日本では高齢者が増え、現役世代が減っていくことが明らかなことから、高齢者保険のあり方についても検討が必要としています。

 
最近では、「政府が、将来的に出産費用を保険適用とする方向で検討を進める」といったニュースもありました。
出産費用は公的・私的医療機関での差、地域差などの問題もあります。医療施設の特性やサービス内容なども様々なので、「出産費用の見える化」だけで測れない部分も大きいことは確かです。さらには産前産後休業中や育児休業中の保障、その後の育児支援など、出産育児にまつわる課題はたくさんあります。
妊産婦さんとご家族を取り巻く情報については今後も発信していければと思います。

(2023/1/26)
(2023/3/28 更新)

 
 
【参照】


この記事の筆者
加藤 恵利奈

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
日本大学医学部付属板橋病院で研鑽し
現在は加藤クリニック理事長兼院長、日本大学医学部産婦人科兼任講師。
周産期医療及び母体救命、妊娠高血圧症候群、新生児蘇生のシミュレーション教育を主に研究。

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